旧知の夫婦が、焼酎持ってご飯を食べに来た。昔、彼等はペンと原稿用紙、私はカッターとスプレー糊との挌闘を毎夜毎夜していたので、今晩のようにゆっくりと酒を酌み交わす暇はなかった。彼等は現在も大学教授、作家として日々ワープロと挌闘し続けている。
私はというとカッターを包丁もしくは竿に持ち替えて魚と戯れているわけで、今晩の夕食も相変わらず魚をおろして、焼いて、蒸してもてなした。今日のお客さんメニューは、ひらめの昆布締めと叩き梅和え、ブロッコリラブのおひたし、オラータ切り身の漬け焼き、仔牛のタン塩、ひらめ茶漬け、そしてデザートにブラックベリー。全て近所の魚屋と八百屋、スーパーマーケットで手に入る食材だけで作った。わざわざうちまで来てもらったので、アストリアの食材の豊富さを味見してもらうためだ。
奥さんの岡田光世ちゃんはアメリカやニューヨークのことをテーマにした本を10冊以上も手掛けた作家でありジャーナリストでありエッセイストであり、おとぼけ度120%のおもろいおばちゃんである。根がお嬢で真面目なので、その実体験とのギャップが超おもろ現象を引き起こすのだ。今回もそりゃおもろかった。コーヒー1杯で2時間ぐらい笑わしてくれます。本人はぜんぜんウケ狙いがないだけになお可笑しい。しかし、さすがに作家だけあって、ほんの些細な出来事や話を実に興味深く「斬って」いくのである。けっして「膨らませる」「ひっぱる」のではないのよね、「斬る」わけよ。それがすごいわけだ。だからこういう人とお酒を呑むと大変面白いのである。
今回、それ以上に面白かったのが御主人の塩崎智ちゃんの話だった。智ちゃんは某大学外国語学部の教授であり、日米文化交流史の研究者なのである。学者さんってやつだな。生鮮食料品にゃ、ちとよそ様よりも強いグンジ家であるが、医者・弁護士・学者にゃトンと御縁のない家系なので、果たして久しぶりに会ってどんな話をすりゃあいいのかちょっと悩んだが、それがそれが、もう盛り上がってしまったしまった。
上の写真に列記した人物をあなたは何人知ってます? こりゃ、すごい人達なんだよな。この人達なくして今のこうやってニューヨークで長年居座って暮らしてるうちら夫婦なんて存在しないのではないか…という方々なわけだよ。ちなみに私が知っていたのは岡倉天心さんぐらいで、それも輪郭をなぞる程度しか知らない。このような人達を智教授は、アメリカに残る莫大な過去の資料文献をひも解いて、今日もせっせと図書館に缶詰めになりながら、アメリカと日本のはざまに埋もれた日本人の軌跡を辿り、その人生を今に蘇らせる。幕末・維新の大好きなうちの旦那なんて、もう智ちゃん直々に彼等の話をしてもらい、感動と酒飲み過ぎのあまり、目をウルウル潤ませながら聞き入っていたよ。智ちゃんの出した最近の本「アメリカ「知日派」の起源/ 明治の留学生交流譚」は、NY在住の人は必読であります。この留学生たちはどういう人物だったのか。その後かれらはどうなったのか。それは読んでのお楽しみってことで。
そんなこんなで4人で良く飲み良く食べ、熱く語った楽しい夜となったのでした。